人的資本経営と作業療法②

人的資本経営における「3つの視点」と「5つの共通要素」

前回は、作業療法についてのご説明と「なぜ人的資本経営に貢献できるのか」を簡単にお伝えさせていただきました。

  今回、現在各社さんが取り組まれている実践をご紹介する前にまとめておきたいポイントを先にお伝えしようと思います。それは、「人材版伊藤レポート2.0」に掲載されている「3つの視点」と「5つの共通要素」です

「3つの視点」

「3つの視点」は

①「経営戦略と人材戦略の連動」

②「As is - To beギャップの定量把握」

③「企業文化への定着」

です。

①「経営戦略と人材戦略の連動」

今までは、ボードメンバーに人事に関する責任者が入っていない企業などもあり、経営に人材の要素があまり深くかかわっておらず、経営戦略の上に人材があてはめられていることが多く見られました。しかし、そのため企業経営について働く人がついていくことを強いられ、離脱するものが多数出現する原因を作ってしまいました。

 経営は社長も含めて人がいないと成り立ちません。自分達の進む道と会社の動きは一緒でなければ、手足と身体がバラバラに動きどこにも進むこともできません。どんなニュータイプでもザクも倒せないでしょう。

 そこで、経営陣がしっかりと目的をもって主導する人事戦略、人財戦略が必要です。最近はCHRO(最高人事責任者)を設置する会社も増えております。そして、その戦略を社内全体にしっかりと通達浸透させ、社外に説明できる形にする必要があります。

②「As is - To beギャップの定量把握」

 「As is」とは現在の姿。「To be」とは理想の姿。定量把握をするところまで求めておりますが作業療法ではよくしていたことなので、「ほへ~」と思ってしまいました。

 就労支援やリハビリをする上で「理想の姿」というか「ありたい生活と自分」については目標を明確化しないと進めないからです。これは本当に大事です。進むべき指針があるか/ないかでまったく違います。

 PDCAとよく言いますが、どこへ向かって回すのか。皆様は意識しているでしょうか??目標、ゴールがないと犬がしっぽを追いかけているのと同じです。その場から動けません。

 企業のあるべき姿と連動し、現状の把握をしたうえでどの様な数値目標を立て、変わったのか/変わっていないのかを明確化し次につなげる体制づくりが必要となってきます。

③「企業文化への定着」

 僕は、人的資本経営はこれからの人が働く社会にとってなくてはならないものと思っております。経営のみではなく、社会的文化的に定着する必要があるでしょう。「人的資本社会」とする必要があると思っております。

 企業文化に定着するためにも日々従業員への意識浸透や戦略の共有など実行するべきところが山ほどあると考えています。

 そのためにはやはり企業の目標設定「パーパス」は明確化・宣言する必要があります。その宣言にこそ人は共鳴をするのです。

「5つの共通要素」

「5つの共通要素」は

①「動的な人材ポートフォリオ」

②「知・経験のダイバーシティ&インクルージョン」

③「リスキル・学び直し」

④「従業員エンゲージメント」

⑤「時間と場所にとらわれない働き方」

です。

①「動的な人材ポートフォリオ」

 人財ポートフォリオとはどの部署にどのようなスキル・経験をもったものがどの程度在籍しているかです。この状況をしっかりと現状を把握し適材適所にその時の人財価値に合わせて適合する仕事を提供できる仕組み作りができている必要があります。

これも作業療法士は得意とするところで、就労支援現場などではこの視点がなければできません。

 最近は様々なHRサーベイなどが出ているのでそういったものを活用することも一つにはなりますが、まとめた情報をどの様に使用するかは人の成すべきところで結局は直接の介入が必要不可欠となります。

②「知・経験のダイバーシティ&インクルージョン」

 多様な経験、感性、国籍、性別、価値観、専門性を持ったものを人財として価値を把握し経営にいかすことが大切です。これを必要要素として明言されたことは、作業療法士としてとても喜ばしいことです。

 今まで、就労支援の現場などではこの価値観を企業側がどうしても持つことができず、受け入れ態勢を作る障壁となっていました。OJTや企業研修等で直接介入するなどの事例もありますが固着した企業価値を溶かし、新たな価値を精製するのはいつも骨が折れていた覚えがあります。

 女性の役員登用数などを表すのみでは足りません。根本的に文化から定着させ変えていくことが必要となります。これができているかできていないかで、これからESG投資と共に選ばれる会社か選ばれない会社かの分かれ道になると思います。

③「リスキル・学び直し」

 社員が様々な知見を得る機会を支援することが大切になります。まわりまわって自社の貢献にもつながるでしょう。仕事には「横断的判断」、「俯瞰する能力」によりイノベーションが起こります。

 しかし、何を学ぶのか何を習得したいのか、「リスキリング迷子」にならないようにするためには他の項目にもあるように目標設定は明確にして、意思をしっかり持つ必要があります。リスキリングが昔の「資格マニア」の再来にならないように(資格マニアが悪いわけではないことをご了承ください)。

④「従業員エンゲージメント」

 従業員エンゲージメントとは、組織等集団に対する愛着心や思い入れを指します。企業に対して所属価値を感じることで高まるものであり、貢献したいという欲求が生まれます。

そこで、愛着や思い入れなどはどの様にして持つものでしょうか??腐れ縁とは違います。社員が会社に対して価値を感じることが必要です。満足感とはまた違います。

「満足はしていないが価値はある」ものもあります。

義務や責任も含めて、自分の時間と労力を投資する価値があるのか?作業療法的に欲求は価値があるものにしかわきません。企業はその価値を仕事・役割を通じて与える必要があります。そのために企業の目標を明確化し従業員の欲求に合わせる必要があります。しかし、これは従業員の要望を何でも聞くこととは違います。甘えさせることではないです。

 欲求には5つの段階があります。

 生理的欲求➡安全欲求➡社会的欲求➡承認欲求➡自己実現欲求

 会社の中でこの欲求にどこまで企業価値を提供できるか。しっかりと自己成長、自己実現ができる場となっているか。背中を負う先輩、上司が自分の目指したい姿でなければ新入社員は定着しません。さて、現状はどうでしょうか??

⑤「時間と場所にとらわれない働き方」

 現在、様々な災害や感染症対策などが必要となってきています。一つのやり方、一つの場所にとらわれていると、このような予期せぬ事態が起きたときに対応困難となります。企業はどのような場合も事業継続ができることが重要です。

 多様な働き方により、時間と場所にしばられない方法を検討する必要があるでしょう。

 また、どのような働き方でも、必要な業務プロセスを遂行でき、コミュニケーションがとれるような整備が必要になってきます。様々なアイデアが必要になるため、やはり、どこまでD&Iで多様な考え方を取り入れる体制ができているか、ここでも共通してきます。

 いかがでしたでしょうか??人的資本経営をする上で最低限必要な要素になります。様々な視点が必要になるため、難しいところも多くはあると思います。僕ら作業療法士は長い歴史の中でこの「3つの視点」と「5つの要素」で人の社会復帰/定着を支援してきました。そのためこの視点と要素が提言されたことは驚きと共に、社会が変わる可能性をひしひしと感じております。

 一つの業界のみで風潮は変えることが難しいですが、時代に立ち向かい、選ばれる会社でいつづけるため新たな作業療法という視点を加えて試してみてはいかがでしょうか??

また次回は作業療法の観点からのお話をしたいと思います。